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Rosa eglanteria #03 2007.06.07
「甘い荊 3」


パチン

パチン


パチッ



庭園の一角に設けられた温室に規則正しく響く音。
大人とまでは言えない年頃に見える女性が一人
薔薇の茂みの前で手を動かしていた。

彼女は小さな鉄の鋏を持ち
目の前の蕾を一つ一つ愛おしそうに眺めながら
最も形の良いものにそっと触れると満足そうに微笑んだ。

それから触れなかった蕾の下に鋏を入れ
一つ一つ単調に切り離す。

そうした動作を何度か繰り返し全体を整えていく。


「いらっしゃい。」

一つの茂みを手入れし終えた頃
ようやく彼女は先ほどから自分の背を
所在無げに眺めていた少年に声をかけた。

声をかけられた少年は
黄色がかった肌をさっと緊張の色に染めると
より一層まっすぐに小さな背を見つめ直した。


パチッ

パチン


「ずいぶんと遅かったのね?」

別の茂みに取り掛かりながら
鋏を入れるよりも乱雑に言葉を投げる。


パチッ

パチン


「待ちくたびれてしまったわ。」





バチッ





音が爆ぜる。


艶やかな萌黄色に深緋が乗り移る。


パチン


「いつまでそうしているつもりなのかしら?」


パチン


冷たい床が茜色に染まる。


パチン


「あなたのその汚れた血などいらないわ。」


パチン


目一杯に広がった色とりどりの赤は
逃げ場を求めるように茂みの下にも潜りこむ。


パチン


「いい加減目を覚ましたらどうかしら?」


パチン


少年は答えない。


パチン


「せっかくまた会えたのだから。」


パチン


彼女は手を止め振り返る。
少年は尚も言葉を紡がない。

硝子越しに見える空は薄緋に映え
彼女の白い頬を染め上げていた。



それでも薔薇は白いままだった。

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