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Rosa eglanteria #02 2007.06.07
「甘い荊 2」


風が一つ駆ける。
それを少しも心地良さそうにせずに見送る。


ここはある島へと向かう船の上。
船は多くの生命体(”ヒト”ではないものもいるため)で賑っていた。
普段からこの様に混んでいるのか分からないが
乗客の殆どは同じ手紙を持っているようだった。

共通するある一通の手紙。
「招待状」と書かれたそれは誰から
またどこから届けられたのか全く不明。

手紙の内容から分かることは
それが南海に浮かぶ島へのパスポートになっているらしいこと
そしてとある「パーティー」への招待状であるということくらいであった。

その「パーティー」というのも島の遺跡に眠っているという
財宝を手に入れないかという一風変わった趣向になっているらしい。


甲板でさらに追いかけてくる風を振り払いながら
褐色の肌の青年は良く読まなかった手紙の内容を
ぼんやりと思い出しながら目は少し前の時間に合わせていた。



深緑が目に刺さるほどの深い森の入り口に立つ一軒の屋敷。
外観こそ質素な趣だがかなりの敷地面積を有しているようで
全体を見るとかなりの資産であることが伺える。

その屋敷の一室、外は夕暮れにはまだ早いというのに
そこは薄暗闇に包み込まれていた。

「面白い話だが、胡散臭いにも程がある内容だねぇ。」

その部屋の中央にある調度の良い長椅子に気だるそうに
腰を掛けていた青年は窓を背に明かりを点けずに
ある一枚の紙をぼんやりと眺め見ていた。

そしてそこに書かれている文章を
最後まで読み終わらぬ内に呟いたのが今の言葉である。

言葉の最初とは裏腹に、
青年が少しの面白さも見えない顔をしながら
紙を元の折り目どおりに畳み封筒に仕舞っていると、
背もたれ越しに鈴を転がすような声音が響いた。

「遊びに行く訳では、無いのよ?」

後ろから柔らかく降る音の方へ顔を向けた青年は
先程とは打って変って愉快そうな表情をしていた。

「何なら代わりに行くかい?」

手にした封筒をひらひらと舞わせながら、
表情と同じくからかう様な声で鈴の音に尋ねる。

「あら、解っていてそれを言うの?」

クスクス、と小さく小鳥の囀りのように
可笑しさを噛殺した声が耳に心地よく響く。
青年は目を閉じながらそれに聞き入った。

「意地悪ね。」

青年の耳の近くで囀りを止めた声が聞こえた。
鈴の音の瞳は今は猛禽の様に美くしく輝いている。

淡い光を灯した長い髪がさらりと落ちて青年の左頬で揺れる。
髪の緩やかな動きに合わせて鈴はそのまま白く澄んだ額を垂れる。


息が触れあい、
睫が擽りあう。


しかし。

それ以上はどちらも動こうとはしなかった。
まるで空気の流れの端すら一枚の絵にしてしまったかのように。



どのくらいたっただろうか。
青年は微かに眉を歪め瞳に何度か帷を落とす。

「まったく…どっちが意地悪なんだか。」

そう呟きながらゆっくりと鈴から遠く離れるように
自分の右手の方向へと身体を起こす。

暫く互いの沈黙が続き
部屋には熱すら帯びない静けさがあった。

鈴が再び音を鳴らすまで。


「     。」


鈴が名を呼ぶ。
とてもとても愛おしそうに。


「私に触れたいのでしょう?」


鈴が手を伸ばす。
頬に触れるか触れないかの近さへと。


「それなら、私に見せて。」


女が頬を綻ばす。
青年を魅了してやまないその顔で。


「私のために。」

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