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Rosa canina #02 2007.06.07
「ある黒犬の記憶 2」


そこは仄暗い地の元に眠る墓地。

暗闇を照らす炎は獣の口で紅く燦としていて
規則正しく呼吸をする少女と大きな獣の影を作り出し
他には嘗ては人だった固まりがいくつかあるだけ。


「汝ハ我ヲ恐ロシイト思ワナイノカ…?」

獣は己を見て一歩一歩近づいてくる少女に問いました。
開いた口からは硫黄の臭いが漂い
澄んだ空気を少しずつ侵蝕していきます。

「恐ろしい、ですか?」

少女は直ぐにそう応えました。
しかし後は続けずに考え込むように黙っていたので
獣も様子を伺うように少女を双眸で捉えるだけで
何も言おうとしませんでした。

会話の終わったその間を逃すことなく
墓地は微かな衣擦れの音や息の音を取り戻し
まるで何事も無かったかのように
元の無機質な顔へ戻ろうとしていました。

空白を埋めるように獣が瞬きを一つした後に
少女は考えを纏めたのか
蝕む静けさに遠慮をすることなく
再び小さな口を開き応えをこう続けました。

「相手を恐ろしいと思うのは、そこに自分との違いを見るからです。」

少女の鈴を張ったような皐月色の瞳は瞬きをしても変わらずに獣を捕らえ
鈴を転がすような声音は平淡なまま言葉を続けていきます。

「そうすると、あなたも私が恐ろしいのではないですか?」

少女はそう言うと幾分か柔らかくなった顔で
暗闇から獣の口から零れる焔へと目を移していました。

地下墓地には明り取りがなく
燭台はあっても火を灯す道具はなかったので
少女の目は光に慣れていませんでした。

「あなたは明るいのですね。」

獣の研ぎ澄まされた牙の奥に見える光を見ながら
少女はそう眩しそうに言いました。

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