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Rosa canina #03 2007.06.07
「ある黒犬の記憶 3」


いつも笑っていた
微笑むことが彼女に残された唯一の表情

怒ることも
時に悲しむことも
許されなかった

あぁ
それならば

その微笑が曇りの一点も覚えぬ様
君を照らす光を守ろう




「無様ですね。」

冷たい鋼の声。
しかしそれは言葉を伝えるという目的を果たすには十分な声。

「安住を求めた結果裏切られ住処も追われ…それでも尚、
朽ちぬのは哀れと言うべきでしょうか。」

なおも続く鋭利な言葉に、
その黒い獣は鬱陶しそうにしながらも片目を開いただけで
後は面倒臭そうに脳に直接響くような低音で
―実際に発声しているのかどうかも判別し難い声で応えました。

「汝ニハ我ヲ理解スル必要ナドアルマイ。」

「えぇ。」

鋼の声の持ち主は相変わらずの鋭い声で短く肯定すると
用意していたかのような速さで言葉を続けます。

「自分のことも理解できぬ者を理解する趣味はありません。」


そこは余りにも闇が強い場所でした。

冷たい地面に身体を投げ出している獣の目から溢れた小さな光があって
初めて周りが闇に覆われていると認識することができました。

その光も嘗ては獣の双眸で燦燦と輝いていたはずでしたが
今は弱く淡く揺れているだけです。


「しかし義務は果たさなければなりません。」

男は目深に被ったシルクハットを一度整えると
目を細めながら獣の光を見やりました。

「ソノ割ニハ遅カッタナ。」

男のその言葉を受けてから
獣はゆっくりともう片方の目を開き何度か瞬きをした後に
瞼を閉じるとそのまま己の目に映る闇を見つめ動かなくなりました。

「復讐する気があったならば見物すべきだと考えていましたから。」

光が消え互いの姿が見えなくなっても
その男は獣のいる場所を正しく見つめ無機質に言葉を紡いでいきます。

「復讐カ…相手ガ居ヌ以上、ソレハ無理トイウモノダ。」
「居ないのではなく作らないだけでしょう。」

獣の安閑とした口調を壊し駆り立てるような相槌で
男は獣から何かを引き出そうとしているようでした。
それを肌で感じた獣は再び片方の目を開き
今度は睨みつけるようにその光を男の方へ向けました。

「何ガ言イタイノダ?」
「己の存在意義を消す必要は無いという意味です。」

光を向けられた男はそれでも態度を変えることはありませんでした。
最初と同じ空気を持ったまま獣を見下ろすことを止めません。

「我ハ…己ノ意志ニ従ッタダケダ。」

獣はその様子にこれ以上会話することを諦めたのか
先に目を逸らすとため息と同じリズムで言葉を投げつけました。

「一体どれだけの者が己の意志を完全に理解し、そしてそれに忠実に行動できると?」

その言葉、若しくは態度が気に入らなかったのか
男は周りに這う闇よりも冷たい目と微笑を言葉に添えてこう返しました。

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